一般社団法人 日本褥瘡学会

設立趣意

高齢社会を迎え、長期療養や在宅医療の場において、脳血管障害などの後遺症やアルツハイマーなどによる「寝たきり老人」が増加し、また高齢者が悪性腫瘍治療後に長期臥床を余儀なくされる機会も多くなっています。さらに、さまざまな事故・災害による後遺症や脊髄損傷も依然として多く、このような患者さんに発症する褥瘡が社会問題化しています。

これまで「とこずれ(褥瘡)は看護の恥」とされていました。しかし、褥瘡発症の危険因子を積極的に究明し、ADL(日常生活諸動作)、身体状況、栄養、代謝障害、基礎疾患との関係を解明することに努力が払われた結果、褥瘡の予防と治療・看護には多方面からの協力とアプローチが必要なことがわかってまいりました。従って、21世紀を迎え、また介護保険が発足するに当たり、この褥瘡の問題は私ども医療に従事するものの最重要課題のひとつとなっています。

このような観点から、褥瘡や創傷の医療に携わる、広範な医療関係者、すなわち医師、看護師、介護職員(介護士・ケアワーカー)、栄養士、薬剤師、理学療法士・作業療法士、臨床工学技士、医用工学研究者、薬剤開発技術者などの賛同ならびに参集を仰ぎ、各界が一丸となって学術団体「日本褥瘡学会」を設立する運びとなりました。日本褥瘡学会は褥瘡の予防から治療まで、広範、かつ多岐にわたる問題について研究、検討を行うと共に、治療経験や問題点についての討議と意見交換の場を提供し、その成果が臨床応用されるよう啓発・教育活動を行なうことを目的としています。

具体的には、褥瘡の発生、治癒促進等に関する基礎研究の推進と臨床への応用、医薬品、医療材料、医用工学機器(減圧・除圧器材等)の開発と普及、褥瘡に悩む患者さんや家族の心のケアなどに貢献することが期待されます。さらにわが国に合った褥瘡の評価基準の作成や、2000年に導入が予定されている介護保険にむけて、褥瘡に関する現場の声を医療行政に伝達する活動も本学会の大きな使命の一つと考えます。 貴台におかれましては、以上の趣旨をご理解いただき、本学会へのご賛同とご参加をいただけますようお願い申し上げます。

2011.8.26
日本褥瘡学会

褥瘡と褥創について

2001/07/19
日本褥瘡学会前理事長 大浦 武彦

現在褥瘡と褥創の両方が使用されているが,日本褥瘡学会においては以下の理由で褥瘡の字を用いることとした(表1)。 褥瘡(以下ヤマイダレ瘡)は,医学の教科書や医学論文では以前より一貫して使用されている。 褥創は看護(主にETナース)領域で意識的に使用され始めたが,その理由とするところは,今まで難治性潰瘍の代表であった褥そうでも全身的および局所的に創治癒を促進する治療環境を整えるケアをトータルに実施することにより治癒させることが可能な創傷の一つであるという考えによる。実際,日本の看護辞典には褥瘡および褥創が併用されている。 日本褥瘡学会理事会では学会設立の際,看護領域の代表理事も混えて検討を行い,以下述べる理由でヤマイダレの瘡を使用することを決定した。 まず,字の意味するところとして,ヤマイダレの瘡は,内部要因による壊死,痂皮,「おでき」とあり,褥瘡の他に結核による潰瘍の狼瘡に使われている。 一方,キズの創は,刀キズ,外傷による創である。 実際の褥瘡と「切り創」を比較し,どちらが適切かを考えたい。 原因:褥瘡の原因は複雑であり,圧力,剪断応力,危険因子,低栄養,病的骨突出とADLなどがあげられる。単なる圧力のみでおきるのではない。一方,切りキズは単純で外力や刃ものによるものである。 壊死組織:壊死組織が創や潰瘍の中に存在することは,その治癒経過に大きな影響を与え治癒を長引かせる。この壊死組織は褥瘡では必発であり,壊死組織の扱いが褥瘡の治癒経過を左右する。一方切りキズにはほとんど壊死組織はない。 治癒経過:褥瘡では長く二次癒合,難冶性である。 一方切りキズでは治癒期間は短く,一次癒合,易治性である。 予防:褥瘡では予防可能であり,その際トータルケアが必要。 死亡原因:褥瘡をもって死亡する症例では,感染の直接の病状で死亡するよりも,むしろ呼吸不全,心・腎不全の症状を呈することが多い。したがって褥瘡患者のターミナルにおいては全身病としてのケアが必要である。 以上のように褥瘡は切りキズのよう単純なものではなく,奥が深く,トータルケアが必要な潰瘍である。したがって,本学会では褥瘡はヤマイダレの瘡が適切であると理事会において判断した。 [ 附 ] 瘡面や創(辺)縁などと合成語とするとき,どの様に使うべきかについて。 これは創面はwoundsurface,創縁はwoundedgeの邦語であり褥瘡の創面woundsurfaceofpressureulcers,褥瘡の辺縁woundedgeofpressureulcersでよいと考えている。この使い方は下腿潰瘍の創面woundsurfaceoflegulcers,狼瘡の創(辺)縁woundedgeoflupus,狼瘡の蚕食虫性潰瘍rodentulcersoflupus,熱傷創面,熱傷創辺縁woundedgeorsurfaceofburnsなどと同じ使い方である。

表1 褥瘡と褥創

  褥瘡 切り創
原因 複雑,圧力,剪断応力,危険因子,病的骨突出,低栄養,その他 単純,外傷,外力
壊死組織 必発,多い ほとんどない
治癒経過 長い
二次癒合,難治性
短い
一次癒合,易治性
予防 トータルケア
死亡 ターミナル
呼吸不全,心不全を呈する,栄養不良,感染
救急,出血,感染