褥瘡とは
褥瘡は床ずれともいわれ、ベッドや車いすに接する部位が圧迫されることで、その部位の血行が悪くなり発生します。車いす生活で生じるずれや摩擦の影響もとても大きいです。
褥瘡が起こる可能性は?
1.車いす生活者の圧迫・ずれ・摩擦の原因
- 感覚麻痺があるために痛みを感じにくい。圧迫やずれが生じても気がつかない。
- 運動麻痺があるために痛みがあっても動かせない。
- 床や車いす、便座への移乗時で摩擦やずれが起こる。
- 汗や失禁(便や尿の漏れ)によって、皮膚がふやけて傷つきやすい。
- 長時間同一体位(座位)でいることが多い。
車いすで活動をする場合、圧迫やずれ、摩擦の問題は生涯にわたって切り離すことができません。特に、失禁やおむつで臀部が湿った状態になると、皮膚がふやけて傷つきやすくなり、そこに圧迫やずれ、摩擦が加わると、褥瘡のできる確率はさらに高くなります。
また、栄養不足があると、外力に対してクッションとなる筋肉や皮下脂肪が減少し、傷ができやすくなったり、小さな傷でも治りにくくなったりします。
褥瘡の予防策
1.日常生活での予防
1)寝ているときの圧迫を取り除く(図1)
- 体圧分散用具を使用する。
- 2~3時間毎に体位変換をする。
- 30度の横向き、仰向け、うつぶせなど体位を変換する。
- 体位変換が不十分な方は体圧分散マットレスを使用する。
●体圧分散用具の使用について
長時間、同じ部位にかかる圧力を少なくさせるための用具をいいます。ベッドのマットレスや車いす用クッション、姿勢を整える小枕などがあります。さまざまな体圧分散用具があるので、自分に合ったものを専門家と相談して使用しましょう。
2)座っているときの圧迫を取り除く
褥瘡のできやすい骨突出部位の除圧のため、姿勢変換を行いましょう。
- プッシュアップまたは姿勢変換(図2)を15分~1時間ごと、1回15秒以上行う。
●車いすクッションについて
シーティング評価のできる専門家に相談し、自分に合ったクッションを選択しましょう。
クッションによって圧の調整方法が異なります。購入の際には必ず説明を受けましょう。
- クッションの置き方は、前後・左右、上下に間違いがないか確認する。
- クッションの劣化(へたり)・破損がないかを定期的に確認する。
- エアータイプのクッションでは、使用前にパンクしていないか、空気が入り過ぎていないかなどを確認する。自分でクッションの空気圧を確認する場合は、坐骨部とクッションの間に手を入れて、底付きのないことをチェックしてから、指2本分くらい下方へ動かせるくらいを目安とする。
- ゲルタイプのクッションでは、使用後にクッションの形状を戻すようにする。
- 車や飛行機、列車などの乗車時にもクッションを使用するようにする。
3)排泄を整える
常に便や尿で皮膚が汚染されている状態では、皮膚がふやけ、傷ができやすくなります。下痢便・尿漏れなどの失禁がある場合は、皮膚に排泄物がつかないように、皮膚保護クリームなどのスキンケア用品を使用しましょう。
- 汚れたおむつを当てたままにしたり、パッドを重ねて使用しない。
- 下痢便・尿漏れが続くときは、撥水効果の高いスキンケア用品を使用する。
- トイレ移乗の際に、便座に臀部をぶつけないようにする。
4)入浴で皮膚を清潔に保ち、傷つきにくい状態を維持する
入浴で全身の循環をよくすることは褥瘡予防に効果があります。しかし、入浴中には皮膚がふやけて傷つきやすくなりますので、移動時に臀部が擦れないよう注意が必要です。
- 洗浄時は弱酸性洗浄剤などを用いて、皮膚をごしごしと強く擦らずに洗う。
- 皮膚が乾燥しすぎたときには保湿剤を塗る。
5)十分な栄養を摂る
低栄養状態になると、痩せて骨が出っぱってきたり、全身のむくみを起こしたり、傷ができやすくなります。たんぱく質、ビタミン、ミネラル(亜鉛・マグネシウム・カルシウム・カリウムなど)を多く含んだバランスのよい食事を摂り、皮膚炎や味覚障害を起こしやすい亜鉛不足に注意しましょう。
●栄養の摂りすぎによる太りすぎに注意する
標準体重をオーバーすると、プッシュアップや移乗動作が困難になります。
自分の標準体重や適正体重を知り、コントロールするようにしましょう。
- 定期的に体重測定、筋力評価をする。
- 間食は摂りすぎないようにする。
6)その他:やけど(熱傷)について
感覚が麻痺している場合、熱さがわからずにやけどをし、傷ができてしまうことがあります。
- ストーブに近づきすぎない。ホットカーペットの上に寝ない。カイロを皮膚に直接貼らない。
- シャワーを使うときや浴槽に入るときは、必ず温度を確認する。
- コーヒーやお茶など、お湯を入れた状態のものを太ももの間に入れて運ばない(図3)。
2.競技での予防
競技中は、しっかりと車いすに固定された状況になります。また、簡単に姿勢変換が行えない状況でもあります。競技中は発汗が多く、臀部皮膚が湿潤状態となります。
競技前後で、固定用ベルト部(骨盤や下肢など)も含め、強く圧迫される部位の観察を行い、異常の早期発見に努めることが予防となります。
皮膚のチェックをしましょう
1)褥瘡のできやすい部位(図4)
褥瘡のできやすい部位を理解することで、点検・観察につなげることができます。
2)褥瘡予防のための観察方法
見る
スポーツをしたとき、車や飛行機、列車などに長時間乗ったとき、旅行の後などは注意深く観察しましょう。
- 褥瘡のできやすい部位の皮膚の赤みや出血の有無を目で観察する。
- 見えにくい部位は鏡を使うとよい。
- 写真(携帯、カメラ)を撮って見る。
触る
- 手が届く部位は触ってみる。
誰かに見てもらう
自分で観察できないときは、家族や介護者に見てもらいましょう。
- 頻度:1日1回以上。
- チェックの機会:入浴のとき、着替えをするとき。
衣類(下着)が汚れていないか確認する
傷ができてしまうと、黄色い液(滲出液)や血液が出て衣類に付くことがあります。汚れがあるときは、皮膚の点検を必ず行いましょう。
褥瘡が発生したら!初期ケア、受診可能な施設
褥瘡は傷にならないうちに治すことが肝心です。「これくらいなら大丈夫」と考えずに、初期段階から対応しましょう。
1. 思いあたる原因を考えて、その原因となったことをやめる
皮膚に赤みや傷ができたとき、まずは原因を考え、圧迫やずれ、摩擦を最小限にすることが必要です。 褥瘡を見つけたときは携帯で撮影するなど、できるだけ写真を撮るようにしましょう。メモ帳などに記録して観察を続けましょう(図5)。
継続して見ていくことで、原因と考えてやめた対応が正しかったのか確認ができます。
2.摩擦を減らすために皮膚を保護する
ガーゼの場合は固定テープがずれたり、ガーゼ自体が丸まって圧迫の原因となることもあるので注意が必要です。ポリウレタンフィルム(透明あるいは半透明のフィルムに粘着剤が付いたもの)の使用がおすすめです。
保護効果の高いポリウレタンフォームや油脂性基剤などの皮膚保護クリームや保護オイルを用いてもよいでしょう。
3.赤みのある部位のマッサージをしない
マッサージをすることでずれ力が加わり、炎症が起きたり傷が悪化することがあります。
4.外来受診をする
赤みなどが図6の写真のような状態になったときは、病院に電話をして相談しましょう。
受診可能な施設については、褥瘡受入病院一覧をご確認ください。
(佐々木由美子)